スタインウェイといっても千差万別──年代・製造地でここまで違う

スタインウェイは「どれを選ぶか」で本当に変わる

スタインウェイのピアノに憧れを抱く方は多いですが、いざ購入を考えると「どのスタインウェイを選べばいいのか」で迷う方も少なくありません。なぜなら、スタインウェイと一口に言っても、製造された場所や年代、モデル番号によって、その“個性”がまったく異なるからです。

スタインウェイの魅力といえば、豊かで深い響き、弾き手の表現をそのまま音にする繊細さ。しかし、ニューヨーク製とハンブルク製では音色のキャラクターが大きく異なりますし、1920〜30年代の“黄金期”に製造されたヴィンテージモデルは、現代のスタインウェイとはまた違った独特の鳴り方をします。

中古で出回っているスタインウェイの中には「当たり」と言える個体も多く存在しますが、選び方を間違えると“理想と違った…”という結果になりかねません。だからこそ、購入前にスタインウェイの違いをしっかり理解し、自分にとって最良の一台を見つけることが大切なのです。

この記事では、スタインウェイを選ぶ上で知っておくべき「製造地・年代・モデル番号による違い」について詳しく解説し、あなたが理想の一台に出会うためのヒントをお届けします。

ニューヨーク製とハンブルク製──製造地による決定的な違い

スタインウェイのピアノは、アメリカ・ニューヨーク工場とドイツ・ハンブルク工場の2つの拠点で製造されています。この「製造地の違い」が、スタインウェイの音色や響きに大きな個性を与えていることをご存知でしょうか。

まず、ニューヨーク製スタインウェイは、重厚で力強い音が特徴です。ダイナミックレンジが広く、ホール全体に響き渡るパワフルなサウンドは、アメリカのジャズピアニストやオーケストラとの共演でも高く評価されています。その存在感のある低音や、華やかな高音は、まさに「ステージ映えする音」と言えるでしょう。

一方、ハンブルク製スタインウェイは、透明感のある繊細な響きが魅力です。ヨーロッパのクラシック音楽にマッチするような、柔らかく澄んだ音色で、細やかなタッチのニュアンスまで美しく表現できます。ハンブルク製は全体的に「洗練された音」と形容されることが多く、室内楽やリサイタル向きとも言われます。

ニューヨーク製とハンブルク製は、使われる木材や仕上げの方法、フェルトの材質まで異なり、設計思想そのものに違いがあります。そのため、「どちらが優れている」というよりも「どちらの音が自分の好みに合うか」で選ぶべきです。

スタインウェイに憧れている方ほど、この製造地による音のキャラクター差を知ることで、自分に合った一台を選ぶための大きなヒントになるはずです。

黄金期(1920〜30年代)モデルの魅力

スタインウェイの歴史の中で、特に高く評価されているのが1920〜30年代に製造された“黄金期”モデルです。この時代に作られたピアノは、現代のスタインウェイとは一線を画す、特別な魅力を備えています。

なぜ「黄金期」と呼ばれるのか。その理由の一つが、当時使用されていた最高品質の木材です。北米産の硬質なメイプル材やヨーロッパ産の厳選されたスプルース材が惜しみなく使われており、木の密度や乾燥工程にも一切妥協がありませんでした。結果として、音の響きに深みと温かさが加わり、現在では再現できない独特の“鳴り”を持った個体が多く存在します。

また、この時代はスタインウェイの製造工程が非常に手間暇かけられていた時期でもあります。熟練職人たちの手作業による丁寧な仕上げが行われており、ピアノ全体の構造バランスや響板の仕上げ精度が非常に高かったのです。

そのため、黄金期モデルは「ヴィンテージスタインウェイ」として、現代のピアニストや調律師たちの間でも非常に高い評価を受けています。現代モデルの精密さや安定感とはまた異なる、“生きた音”がそこにはあります。

中古市場において、1920〜30年代のスタインウェイはまさに「掘り出し物」と呼べる存在ですが、同時にしっかりとしたレストアやメンテナンスが施されているかが重要です。本来のポテンシャルを最大限に引き出すためには、専門家の目利きが欠かせません。

モデル番号・製造年から読み解く「狙い目ピアノ」とは

スタインウェイのピアノは、サイズや用途によって「モデル番号」が振られています。そして製造年によっても音色や作りに違いがあり、これらを知ることで「自分にとっての狙い目」が見えてきます。

まず、スタインウェイのモデル番号には以下のような代表的な種類があります:

  • モデルS(155cm):最も小型のグランドピアノ。スペースが限られた家庭向け。
  • モデルM(170cm):コンパクトながらも豊かな響きが得られる、人気のモデル。
  • モデルO(180cm):モデルMより一回り大きく、より深い低音と広がりのある響き。
  • モデルL(180cm):奥行きのあるサウンドで、小ホールでも活躍できるサイズ。
  • モデルA(188cm):中型サイズピアノ。大型と小型のよいところを兼ね備える。
  • モデルB(211cm):コンサートグレードに迫る音量とバランスを持つプロ御用達モデル。
  • モデルC(227cm):D274とともにコンサートユースとして至高の音色を奏でる。(但し日本市場にはほとんど入っていないモデル)
  • モデルD(274cm):フルコンサートグランド。世界中のホールで使われる最高峰。
  • ※現在新品のS型、M型については、日本市場では現在ニューヨーク製を輸入しておりそれ以外のモデルはハンブルグ製になります。

同じモデルでも、製造年によって音のキャラクターや作りの精度が異なります。特に「黄金期」とされる1920〜30年代のピアノは木材や製造技術の質が非常に高く、中古市場でも高い人気を誇ります。

また、1970年代以降のモデルは安定性を重視した設計が増え、パワフルな響きが得られる一方で、手作業による細やかな作り込みはやや減少したとも言われます。そのため、ヴィンテージの音色にこだわる方には1950年代以前の個体が好まれる傾向があります。

中古ピアノを選ぶ際には、「モデル番号」「製造年」「個体ごとのメンテナンス状態」の3点をしっかりチェックすることが重要です。特に“音の鳴り”は写真やカタログでは分からないため、専門店で実際に試奏し、調律師のアドバイスを受けながら選ぶことが、理想の一台に出会う最短ルートとなるでしょう。

スタインウェイ選びは「信頼できる専門家」と一緒に

スタインウェイと一口に言っても、その音色や響きは「製造地」や「年代」、「モデル番号」によって驚くほどの違いがあります。ニューヨーク製とハンブルク製では音のキャラクターが全く異なり、黄金期と呼ばれる1920〜30年代のモデルには、現代にはない深い味わいが宿っています。

しかし、これらの違いを理解したうえで「自分にとって最高の一台」を選ぶのは、決して簡単なことではありません。外見が美しいからといって、必ずしも理想の音が得られるわけではなく、内部のコンディションや調整状態が大きく影響します。

だからこそ、スタインウェイを購入する際には、信頼できる専門家のアドバイスが不可欠です。経験豊富なスタッフや調律師が在籍し、実際に試奏できる環境が整っているお店でこそ、自分に合った一台と出会うことができます。

当店では、お客様一人ひとりの音の好みや演奏スタイルに合わせて、スタインウェイ選びをサポートしています。製造地や年代だけでなく、個体ごとの「響き方」や「タッチ感」まで丁寧にご説明し、ご納得いただけるまで試奏を重ねていただけます。

一生に一度の大きな買い物だからこそ、スタインウェイの本当の魅力を理解し、自分にとってベストな一台を見つけてください。そして、私たち専門店スタッフがそのお手伝いをさせていただければ幸いです。

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